クリスマスの放課後。
それは突然起こった。
北川はこの日,かなり不機嫌だった。
親友である祐一はあゆとクリスマスを過ごすと言うのに自分は一人。
北川にもあてはまった。
香里と過ごそうと思っていたのだ。
しかしあえなく撃沈した。
『ごめんなさい,その日は栞と一緒にクリスマスを過ごすことになってるの。だから一緒にいられないわ。』
北川は自分よりも妹の方が大事であると宣言されてショックを受けた。
そのことをからかうように自慢を祐一に繰り返され,彼の不機嫌度数は最高値に近かった。
そしてさらに彼を不機嫌にさせたのは,そもそもその日,普通は冬休みなのにも関わらず学校に呼ばれたことだ。
祐一と北川は成績不振の為に学校へ補充授業に来ていたのだ。
そして祐一は先に帰ってしまった。
本当は北川も一緒に帰れるはずだったのだが,先生に呼び止められ、手伝いをさせられてしまったのだ。
しかも,
『おまえどうせこのまま帰っても一人で急いで帰らなきゃいけない事もないだろ?だったら少し手伝ってくれ。お礼はするから。』
事実とはいえ,それはあまりにも残酷な言葉だった。
その言葉は祐一にもかけられたのだが,彼は
『俺はちゃんと待ってるやつがいるから。』
と軽くあしらって行ってしまった。
北川は物凄く悔しがった。
どうしておれはクリスマスにこんなことをしてなきゃいけないんだ。
くそ,祐一め。
俺よりもあゆちゃんとのひとときを選んで逃げるとはなんてやつだ。
この恨み,いつか晴らしてやる。
そんなやつ当たり地味たことを思いながら旧校舎で作業をしているときだった。
突然どこからともなくすすり泣くような少女の声を彼は聞いた。
『どうしてきてくれないの?ずっと待ってるのに・・・』
『私がここを守らなきゃ。いつまでも。ここは約束の場所だから。』
その声は心に響くようだった。
怨念,なのだろうか?
悲しい,恨めしそうな声だった。
普段の北川なら驚きふためいたに違いない。
しかしこの時同じような心境だった彼は驚くどころか,その言葉に共鳴するかのように声のする方へ寄って行った・・・
―クリスマスは2人で,2人だけの‘学校’で過ごしたい。
クリスマスが間近になった頃,あゆがおれにそう言った。
頬をうっすらと赤らめて,それでいて嬉しそうな表情で。
―まさかクリスマスを祐一君と祝える日が来るなんて思わなかったよ♪ボク,物凄く幸せだよ。
おれはすぐに返事を返した。
もちろん断る理由なんてない。
―嫌だ。寒いのは嫌いだ。こたつでぬくぬくと過ごしたいんだ。
そういえばおれ,そう言ったんだったっけ?
もちろんそれは冗談だ。
おれという男は,どうも素直に物を言うのが大嫌いなタイプなのでどうしても冗談をいってから本題に入りたいと常々思う。
その日もそうだった。
その後の展開は大体こうだった。
『うぐぅ、酷いよぉ。僕はあの思い出の木の下で夜を過ごしたかったのに。』
『思い出っておまえ,自分が死にかけた場所で,しかも雪が降るかもしれないくそ寒い場所で一晩過ごすきなのか?』
『うん,もちろんだよっ♪』
『おれは絶対嫌だぞ。おれは子供のおまえと違って寒さには敏感なんだ。そんな場所で一晩過ごそうもんなら次の日おれはあの世にいるぞ。』
『大丈夫だよ,僕も一緒だから♪』
『そんな問題じゃない!おれはまだ死ぬ気はないぞ。』
『もちろんボクもだよ♪』
『あったら諦めろ。』
『大丈夫だよ。秋子さんに話してちゃんと許可貰ってるから死ぬことなんてないよ。ボクに任せてよ。』
『許可っておまえ・・・・何をしようとしてるんだ?』
『それは秘密だよ♪当日のお楽しみ。だから一緒に過ごそうよ,祐一君。』
『ここでおれがしょうがねぇな,と言うとでも思ってるのか?』
『うんっ,だって祐一君,何だかんだ言っても優しいもん。』
・・・とまあ,こんな感じだった。
何とか理由をつけて逃げようとしたのだが,この日のあゆは普段稀に見るしつこさで結局折れるしかなかった。
一応おれはあゆの恋人で,将来を誓った仲でもあるからそう無下に断るわけにもいかなかった。
あゆの喜ぶ顔も見たかったし,しょうがないか。
そんなわけで,クリスマスの日はどうやら地獄を見そうな予感がした。
そしたらホントに当日は地獄だった。
・・・クリスマスの日に補習やらせるな,先生よ。
そりゃ,成績不審だったおれが悪いのではあるが,ちょっと理不尽な気もする。
そのことをあゆに言ったらあいつは思い切り膨れた。
そしてあのあゆに『ちゃんと勉強しないとダメだよ』と釘までさされた。
あゆをチョップした後,おれは本気で落ち込んだ。
あゆに勉強のことで突っ込まれるなんておれもダメだな・・・
そんなどうでも良いことはおいといて。
結局あゆはおれが戻ってくるまでに先に集合場所へいて準備をするという事で,おれと同時に家を出たのだった。
出て行く時思いきり秋子さんにあゆがからかわれていた気がするが,良く見ていなかったので何を言われてたのかは覚えていない。
何かを渡されて顔を真っ赤にしていたようなので,多分ドジな忘れ物でもしてたんだろう。
そんな事情があるので,その日の補習はもう上の空だった。
適当に課題をやりながら時が経つのを待つ。
あゆの手前では気のなさそうなことばかりいていたが,実はかなり期待している。
おれとあゆが2人きりでいることは意外に少ない。
おれもあゆも秋子さんの家で世話になっていて,あゆと名雪は一緒にいることが多かったからだ。
それが悪いとは思わないが,ただ寂しかったのは事実だ。
だから今日は何があるのかホントに楽しみだ。
だが楽しみよりも寒くはないか,という不安の方が大きいので内心はかなり複雑な気分だった。
色々と考えているうちに補充は終了した。
担当の先生に何やら頼まれごとをされたが,北川にすべて任せてさっさと家へ戻った。
その時北川はおれをかなり恨めしそうな目で見ていた。
北川のやつはクリスマスは一人だと言うからな。
哀れなやつだ。
そんな事を思いながら後者を出て行こうとした時。
「・・・・ゆういち・・・・・・・・」
どこかでおれのことを呼ぶ声が聞こえた気がした。
それもどこかで聞いたような・・・・少女の声。
気にはなったがおれはそんな事よりもこの後のことの方が大事だったので気にせず家へ帰る事にした。
家へ帰ってきたおれは早速出かける準備をした。
そして出て行こうとした時,秋子さんに呼び止められた。
「祐一さん,一つ良いですか?」
「はい,何ですか?」
「祐一さん,あゆちゃんにプレゼント用意しました?あゆちゃん,楽しみにしてたようだけど。」
プレゼントの存在をすっかり忘れていた。
「そういえば何も用意してないです。」
「そう。プレゼントはあげた方が良いと思いますよ。女の子はそういうことには敏感ですから。」
あゆも曲がりなりにも女の子だからな。
「そうですね,そうしようかと思います。けど・・・」
「何をあげればいいのか分かりませんか?」
「そうなんです。」
今のおれに浮かぶプレゼントと言えば袋一杯のタイヤキ,くらいしか思いつかない。
「すいませんけど秋子さん,プレゼント選び手伝ってくれませんか?」
「そうねぇ,でもそういうのは自分で選んだ方が良いと思いますよ?」
「それはそうなんですけど,どんなものを買えば良いのかさっぱり分からないんですよ。プレゼントに最適なものが置いてある店も良く知らないですし。」
「なら私がお店まで連れていってあげますよ。でも選ぶのは自分でしてくださいね。私は買い物があるので。」
そんなわけでおれは秋子さんと二人で商店街に行くことになった。
それがこの後のおれに重大な影響を及ぼすことになろうとは思いもつかなかった。
‘やつ’は突然やってきた。
商店街の手前の人気の無い道を秋子さんと歩いていたが,急に圧迫感を覚えたかと思ったら中を浮く感覚。
まさに無重力状態。
「ぐぁぁっ」
「え?・・・・祐一さんっ。」
秋子さんの声はおれの耳にはほとんど届かなかった。
不意の衝撃という事もあっておれは何十メートルも吹き飛ばされ意識不明寸前に追い込まれた。
おれは原因を確かめようと朦朧とした意識の中自分の立っていた位置を見る。
そこには見慣れた男が立っていた。
「な・・・きた・・・がわ?」
虚ろな表情でおれの方をじっと見ている。
目には悲しみや怒りや,色々な感情が入り混じっているように見えた。
「あれは・・・誰かに憑かれてますね。それも祐一さんに関係のある人に。」
不意に秋子さんが呟く。
「祐一さん,人殺したりしたんですか?」
恐ろしいことをさらっと聞く秋子さん。
「そんな事・・・・・おれがするわけないでしょう・・・・・・!」
痛みに耐えながらおれは反論した。
「それはそうでしょうねぇ。ではこの方に直接聞いて見ましょうか。」
そう言って秋子さんは無造作に北川に近づいていった。
そして何やら懐から取り出したかと思うと常人では信じられないスピードで動いたかと思ったら北川がその場で力尽きるようにして倒れた。
・・・・・え?
「・・・一体なにやったんですか,秋子さん?」
暗殺術でも会得してるんですか?
とまでは聞けなかった。
冗談が言えるような気がまったくしなかった。
「暗殺術じゃありませんよ。ちょっとある物を食べてもらっただけですよゥ」
「・・・・・え?」
暗殺術よりある意味恐ろしかった。
ある物というのが何であるかは怖くて聞けなかった。
もしかしたら自分も食べたことがある物かもしれなかったから・・・・
結局寒い中北川をそのままにしておくわけにもいかず,一旦家へ戻って北川をベッドへ寝かせた。
そのころにはおれもかなり回復していた。
「それで,これからどうするんですか,秋子さん?」
「私に任せてください。北川さんについていたものを呼び出します。」
呼び出すってあんた・・・・
「大丈夫です。あれにはそう言うこともできるようになってますから」
「一体どう言うものなんだそれはっ。」
「聞きたいですか?」
「・・・・・・いえ,聞きたくないです。」
聞いたら自分も危なくなりそうだ。
「そうですか。・・・それでは。」
秋子さんが何やらぶつぶつと呪文のような言葉を紡ぎ出す(ホントに何者なんだ?)。
すると北川の中からうっすらと人の影が現れ出すのが見えた。
ウサギの耳のバンドをつけた少女だった。
あれ?この子どこかで見たような・・・
『守らなきゃ。一人でもあの場所を守らなきゃ・・・』
思いつめたように同じ言葉を繰り返していた。
「こんにちは。ではさようなら。」
秋子さんは笑顔でそう言うと呪文を呟き出し,そして少女は志半ばで消えた。
『少しは私のこと聞いてくれても良いのに・・・・。』
かなり悲痛なその一言はおれの胸に深く響いた。
「ひでぇ・・・・」
「世の中には知らない方が幸せだという事が沢山あるんですよ。」
「そんな事言っても,おれに関係あることだったら知っておいた方が良かったと・・・」
「だからこそ不要なんですよ。知ってしまうとあゆちゃんがかわいそうになるかもしれませんからゥ」
そう言った瞬間だった。
どういう事か聞こうとしたが一瞬で視界が反転し,おれの意識は途絶えた。
「余計な事は忘れて,ゆっくりとお休みになってくださいね。」
最後にそんな言葉を聞いた気がした。
おれが目を覚ましたのは夜遅くになってのことだった。
何故か頭が凄く重い。物理的にではなく精神的に。
「何があったんだ?」
変な夢でも見たのだろうか?
それとも酒を飲んで寝たりしたのだろうか?
寝る前のことについて思い出そうと試みるが,どうも思い出せない。
思い出そうとするともやがかかったような歯がゆい感じがする。
「まったく・・・クリスマスだっていうのにどういう事だ?」
そう思いながら日付を見るとおかしな事に気づく。
あれ?日付が1日進んでる?
今日はもう26日?
・・・・どうなってるんだ?
深く考えようとすればするほどわけが分からなくなってきたので俺はそのまま寝てしまうことにした。
そして翌日,おれは大事なことをすっぽかしていたという事実に初めて気づくことになる。
『―昨夜のニュースです。某街の郊外にあるある大きな木のあった場所で行き倒れ状態になって凍えていた少女を朝たまたまその周辺を歩いていた人に発見され,保護され病院へ送られました。その人によると,少女は一人で大きな切り株のある場所の近くでキャンプを張り中では暖房をつけていながら,雪の降る寒い中,外で一人で立ちつづけてある人の名を呟きつづけていたという事で,警察は・・・』
続く・・・のか?(汗
クリスマス記念なのに思いきり遅れ,サラに内容がクリスマスとまったく関係ないといっても良い内容でお届けします,クリスマス記念SS(死)←挨拶
もう自分でわけがわからなくなってきました。最後のほうはノリだけで書いてます。おかげで支離滅裂な内容になってます。誰か修正してください(笑)。
次はこれの続きをあけましておめでとうSSです。多分また遅れるでしょう(ぉ。
お願いですから見捨てないで使ってやってください(汗
それでは,これからもよろしくお願いします。
2000年12月27日 Kanon系(?)HP相互サイト様
サンズ管理人・シャイン